小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明

小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明

兵庫県司法書士会 会長  島 田 雄 三
  1. 今般、小野市は、「小野市福祉給付制度適正化条例」案(以下、本条例案と言います。)を議会に上程されましたが、本条例案は、以下のとおり人権侵害を招きかねない内容を含んでおりますので、当会として反対いたします。
  2. 本条例案は、「受給者」を「生活保護法や児童扶養手当法その他の福祉制度に基づく金銭給付を受けている者」及びこれらを「受けようとしている者」と定義し、「福祉制度の適正な運用」と「これらの金銭の受給者の自立した生活支援に資すること」を目的にしています。そして、市民一般に対し、「受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるとき」には、「速やかに市にその情報を提供する」ことを義務付け、そのための「適正化協議会」及び「適正化推進員」を設置し調査を行わせるものとなっております。
  3. まず、本条例案で市民一般に貴市への情報提供が義務付けられる受給者の行為として、1.偽りその他の不正な手段による受給、2.給付された金銭をパチンコ等の遊技、遊興に費消し、生活の維持・安定向上に支障をきたす行為、3.賭博に費消し、生活の維持・安定向上に支障をきたす行為を全て同列に論じていますが、1.はいわゆる不正受給、3.は刑法上の犯罪であり、本来は市民の誰もが自由に行い得るパチンコ等の遊技、遊興とは全く異なります。不正受給に関しては、福祉事務所において適切に対処することにより解決しうる問題であり、またそのように解決されるべき問題です。刑法上の犯罪である賭博に至っては、警察が取り締まるべきものです。それらを市民に監視させ通報義務を負わせることには大きな問題があります。
  4. 更に「給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消し」その結果として、「その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしている認めるとき」とされていますが、「生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況」を「常習的に引き起こしているかどうか」という判断は、一般市民の目から見れば憶測に拠らざるを得ません。パチンコ等の遊技・遊興等それ自体をあげつらうことになるだけであり、社会保障制度利用者及び利用しようとする者に対して疑いの目を持つことを奨励することになります。ひいては差別と偏見を助長することにつながります。
  5. 憲法第25条の生存権の保障とは、具体的には人間の尊厳にふさわしい生活を保障するというものです。そして、人間の尊厳にふさわしい生活の根本は、人が自らの生き方ないし生活を自ら決するところにあります。個人の自由な行動により自らの生活に破綻をきたすことは由々しきことではありますが、だからと言って条例によって一般市民に監視させ通報義務を負わせるというやり方は、人間の尊厳を否定するものであり、憲法第13条で保障される個人の尊重、生命・自由・幸福の追求が不当に制限される恐れがあります。
      また、誰が生活保護等の社会保障制度を利用しているか、利用しようとしているかということは本来他人が知り得ないプライバシー情報であるにもかかわらず、一般市民にこのプライバシーに立ち入る過大な義務を課すことにより、受給者及びその家族のプライバシーを暴き出し、指摘することが正当化されるという危険な風潮が作出される恐れがあります。市民が互いに敵対心を抱き、疑心暗鬼となり、現に社会保障制度を利用している者、これから利用しようとする者を萎縮させ、その利用を躊躇させるものとなります。これでは、本条例案に掲げられている福祉制度の適正な運用とこれらの金銭の受給者の自立した生活支援に資することという目的に合致しません。
  6. 私達司法書士は、高齢者や障がい者に対する権利擁護活動、自死問題への取り組み、貧困問題への取り組み等、市民と共に歩む活動を通じ、パチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等によって生活の維持、安定向上を図ることができなくなるケースの多くにおいて、「依存症」や「発達障がい」という本人の意思や外部からの単なる強制のみでは改善の難しい問題が原因となっていることを知っています。本条例案の発想は、このような理解をまったく欠いていると言わざるを得ません。本来行政に求められるのは、医療的ケアやケースワークといった個々に対する「支援」の姿勢なのです。本当に大事なのは市民一人一人の幸福のはずです。市民からの情報提供に基づき、調査・指導・指示を行うといった、画一的で強権的なものとならざるを得ないシステムを作ったところで根本的な解決にはならず、むしろ逆効果となる恐れもあります。
  7. 以上のとおり、当会は、社会保障制度利用者及び利用しようとする者の権利を侵害する恐れがあり、社会全体に望ましくない影響を与える可能性のある本条例案の撤回ないし廃止を強く求めます。

 

以 上

 

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