切り下げを前提とした生活保護基準の見直しに反対し、徹底した慎重審議を求める声明
兵庫県司法書士会長 島 田 雄 三
【趣旨】
当会は、政府・厚生労働省に対し、「生活保護基準の見直し」につき、基準の切り下げを前提にした安易かつ拙速な議論を厳に慎むとともに、公開の場で生活保護利用者を含めた幅広い市民の声を十分に聴き、徹底した慎重審議を行うことを強く求める。
【理由】
厚生労働省は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006(骨太方針2006)」を受け、2007 年10 月19 日、10 月30 日、11 月8 日、11 月20 日とほとんど間隔を空けることなく、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会」を実施、来年度の予算編成に間に合うよう急ピッチで生活保護基準の見直し作業を推し進めている。
同「検討会」に配布された資料によれば、
- 一般低所得世帯の消費水準との均衡を図ることによる生活扶助基準の大幅な切り下げ、
- 級地区分の見直しによる多くの生活保護利用者が属する都市部における給付の切り下げ、
- 就労基礎控除を見直すことにより就労している生活保護利用者に対する給付の大幅な切り下げ、その他
- 冬季加算の見直し、1 類費・2 類費区分の見直し等により、生活保護基準の組み換えを含む大幅な基準の切り下げを目指して検討が進められていることが明らかとなっている。
しかし思うに、生活保護基準は、憲法25 条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」に関する重大な基準であり、かつその変更は、介護保険の保険料・利用料、障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療、福祉、教育、税制などの多様な施策にも連動している。したがって、生活保護基準が切り下げられれば、生活保護利用者のみならず、低所得世帯をはじめ市民生活全般にわたり甚大な影響を及ぼすことになるのである。
また、わが国においては、行政による教示の不徹底と窓口における違法な、又は不適切な運用等が要因となって膨大な漏給層、即ち、生活保護制度のセーフティーネットから
漏れている世帯が数多く存在している。そのようななかで、絶対的貧困に陥らないための担保措置を取らないまま、生活保護を利用していない低所得世帯との単純な比較によって生活保護
基準の切り下げを行うならば、他の施策に及ぼす効果と相俟って、生活保護利用世帯及び生活保護を利用していない低所得世帯の生活水準が、スパイラル的に引き下げられていく危険性が
あるのである。そうであるにも関わらず、政府・厚生労働省は、相対的な比較のみによって生活保護基準の切り下げに踏み出そうとしているのである。
生活保護基準の見直しは、憲法25 条に関わる重大な問題であるとともに、生活保護利用世帯のみならず一般低所得世帯をはじめ、市民生活全般に大きな影響を及ぼす問題である以上、本来公開の場において、生活保護利用者を含め幅広く市民の意見を聴き、十分に時間をかけて慎重な議論がなされるべきである。
しかしながら、厚生労働省は、前述したようにわずかな期間での「検討会」を重ね、来年度予算編成に合わせて拙速に結論を出そうとしている。
これでは「検討会」の開催自体が初めに結論ありきの儀式にすぎないと言わざるを得ず、生活保護基準の重要性に鑑み到底容認できるものではない。
当会は、多重債務問題に関する取組み、成年後見業務等を通じて、現代日本の格差と貧困の拡大及び社会保障制度の矛盾に直面する多くの市民と接する立場から、今般の生活保護基準の見直しについて重大な関心を持つものである。そして、以上の見地から当会は、政府、厚生労働省が推し進めようとしている生活保護基準の見直しが、基準切り下げを前提とするものであるならば断固としてこれに反対し、基準の検討にあたっては慎重な審議がなされることを強く求める。