生活保護費を削減する予算案に反対する会長声明
政府は、生活保護の生活扶助基準を2013年度から2015年度にかけて段階的に670億円減額することを決めた。また、期末一時扶助を70億円減らすことにより、総額にして740億円、平均で約7.3%(最大で10%)減額するとしている。これにより受給世帯の96%で支給額が減ると試算されている。
我が国の生活保護制度の大きな問題点の一つは、補足率の低さであり、本来生活保護を受けられる資産・所得水準であるにもかかわらず、保護を受けるに至っていない膨大な数の市民がいると考えられる。
政府は保護基準を引き下げる根拠の一つとして、低所得世帯の消費水準と生活保護基準との比較を挙げているが、低所得世帯においてこのような生活保護の漏給が発生している状態では、生活保護基準よりも低い生活水準で生活せざるを得ない世帯が多くなるのも当然である。
また、保護基準を引き下げるもう一つの根拠として、政府はデフレによる物価下落を挙げている。しかし、物価を比較する対象の年度や品目が妥当か否かについては検証されるべきであり、本当に生活保護基準を引下げる必要があるのかどうか、慎重な議論が必要である。
今般の予算案では、子育て世帯における保護費の削減幅が大きくなると試算されていることも大きな問題である。貧困家庭に育った子どもは、大人になってからも貧困に陥りやすいという「貧困の連鎖」はかねてから指摘されていることであり、これがますます強化されることになる。
また、2013年度においては、保護基準の切り下げとは別に、就労支援の促進、不正受給対策の強化、医療扶助の削減などによって450億円の生活保護費の支出を減らすとも報道されている。適正な生活保護制度の運用を行うことは大切であるが、この方針により、例えば、市民が生活保護を申請しようと福祉事務所へ行っても適正な理由なく申請させてもらえないという、いわゆる水際作戦が行われたり、保護受給者に対して行き過ぎた不当な指導が行われたりといった、過度な締付けがなされ、市民を窮地に追い込むことが無いか懸念する。
生活保護基準は、憲法第25条の保障する「健康で文化的な最低限度の生活」に関する重要な基準であり、就学援助の給付対象基準、地方税非課税基準、最低賃金等、生活保護だけでなく他の制度とも連動している。従って生活保護基準を引き下げれば、生活保護受給世帯だけでなく、市民生活全般にわたり重大な影響を及ぼすことになる。政府は2%のインフレ目標を掲げるとともに消費税の増税を予定しているが、その中で将来にわたって保護基準を切り下げるという方針は、生活に困窮している市民にますます苦しい生活を強いるものとなる。
生活保護受給世帯を含む低所得世帯の市民は、現在においても大変な困窮状態で生活していることを、そして、精神的に大きな問題を抱えている人も多いことを私たちは見てきている。これ以上市民が貧困に苦しむことが無いよう、当会は、生活保護費の削減を含む予算案に反対する。